ロジカル・シンキング


 私はなにぶん意識が高い。平均的大学生の値を軽く超える程意識が高い。平均以下の学ぶ意欲の無い者は私のことを「つまらぬ男」と切り捨てるが、そいつらの言うところの「面白さ」等、ちり紙交換にすら出せやしない。
 私は意識が高いので、常に最良の行動をとるべく行動前の行動を忘れない。それは単なる思弁ではない。哀れな人文知にすがる人間が、永遠に解けない形而上学的課題に取り組むのとはわけが違う。私が行動する前にする行動は、行動を前提とした行動である。

 だから私は、今からポモドーロ・テクニック*1を駆使し、今この時に為すべき行動を選択する。私ほどの人間であれば、1ポモドーロで十分だろう。

 まずはブレインストーミング*2だ。既に私のような意識の高い人間はお気づきであろうが、ブレインストーミング、通称「ブレスト」は集団で行うものだと相場は決まっている。しかし、極めて私的な領域の問題であれば、一人でブレストすることは容易い。最も、そこに至るには多くの修練を要するが。
 一人で行うブレストで用いるのは、「理性」である。「良識」と置き換えても良い。かつて「bon sensはこの世で最も公平に配分されているものである」と言った哲学者*3がいたが、私はそうは思わない。何故ならば、私には多く配分されているから一人でブレストを行うことも容易いが、その代わりに全く配分されなかったような人間がごまんといるからだ。無知のヴェール*4とやらが空虚な概念だというのが実にわかる。
 話が逸れた。私はその人より多く配分された「良識」を用いて、様々な角度から検証する。現在の時間、立場、体調、場所、これらのことを一挙に勘案する。もちろん、ブレストという特性上、突飛な案も受け入れる。「良識」という奴は、意外に「緊張と緩和」の使い方が上手い物だ。
 
 ブレストの結果出た案を総合して、グルーピング*5する。さすが広い視野のある私の「良識」である、出てきた案は雑多すぎる。私はこれらを適当にグルーピングし一つの表にする。当然といえば当然であるが、このグルーピングは完全にMECE*6である。無駄な重複や、一切の漏れもない。ブレストで出てきた案を文字通り「網羅」したグルーピング、すなわちMECEである。

 このMECEからロジックツリー*7を組み立てる。程度の低い人間は、このロジックツリーを冗長にさせる傾向にあるが、私はそのようなことはせず、極めて簡潔に、それでいて網羅性のある、比較検討が容易な形にすることができるのであり、その辺りは是非とも皆に真似ていただきたいところであるが、いかんせん私のレベルまで達するには多くの時間を必要とするから、そうそう真似はできないであろうが、それであってもチャレンジくらいはして欲しいものである。
 
 さて、大変優秀な私の「良識」達がブレストをし、その案をMECEという形で精巧に組み分け、そこからロジックツリーを組み立てた結果、今私が為すべき行動が出てきた。
 ちょうど、1ポモドーロが終わったところである。いいだろう、ポモドーロ間の休憩の間に済ませられるに相違ない。


 うんこしてくる。



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